昨年の末にぎっくり腰になり、痛い経験をしました。そして図らずも杖のお世話になり、杖歩行に伴う幾つかの困難を体験することになりました。年末年始は家の中でじっとしておりましたが、3が日が過ぎて外出を余儀なくされた折、杖に頼ることにしました。
セミナーで使用するT字杖です。
杖の先のゴムが磨り減っていないことを確かめ、 高さを大転子にあわせ、恐る恐る出かけました。
初めは気恥ずかしさが先にたったのですが、いつのまにか杖は心強い相棒になって安心を
与えてくれていました。
家を出て暫くはひたすら杖歩行に集中していたのですが、間もなく歩道が(車道もそうですが)緩や かに傾斜していることを知りました。自然の造形であったり、雨水の排水のためであったりするのでしょうが、 これが普段とは違った顔を見せ、微妙に傾斜がある分、杖の高さを不安定にさせるのです。
持ち手の部分が大転子より高くなったり低くなったりして、歩きにくいのです。微妙に体のバランスを修正しながら歩きましたが、 ごく普通の道も事情 によっては一筋縄ではいかないことを知りました。
杖歩行の困難さはまだありました。
駅に近づくにつれ、人通りが増えてきます。前からも後ろからも人が行き交います。
ぎっくり腰の私は、ゆっくりゆっくり歩いています。
物に触れるのも怖いのに、行き交う人達のスピードは普段以上に早く感じられます。
動きの緩慢な私は、背中に冷や汗を感じつつ、 何とか早めに避ける動作を意識しておりました。下向きに歩いてくる人、携帯電話のメールに視線を落としたまま歩いて来る人、小走りに通り過ぎる人、さまざまです。
体に当る怖さ、杖を蹴られることの怖さからは逃れられませんでした。腰の痛みから解放された今、杖歩行に伴う困難への理解を更に多くの方達にお伝えしたいと思っております。
視覚障害の方が利用される白杖に対する配慮は周囲を通行する方にとって常識ともいえますが、 街中でごく普通に見かけるT字杖にも気を配ることの大切さを学んだ日々でした。
(平成20年4月17日:鴨志田)