先日、コーディネーターの加藤奈緒子さんから次のようなメールが入りました。
最寄り駅の改札を出た辺りで、どこからか「すみませ~ん、すみませ~ん」と大きな声が聞こえてきましたので、声のする方向を見ましたら、白杖を持った若い女性が「どなたか駅の近くのコンビニに連れて行ってください!」と懸命に訴えている様子でした。
周りに人は何人もいたのですが、どなたも手伝おうとせず、ただ遠巻きに見ているだけでした。
少々淋しい思いをしながら「コンビニでよろしいのですね、どうぞ腕に掴まってください」と声をかけ、お連れいたしました。
その時の駅周辺は丁度込み合う時間帯で且つ雨の日だった為、視覚障害のその女性は方向感覚を失ってしまい、誘導をお願いすることになったとのことでした。
(以上、加藤さんからのメールより)
皆さんはどのようにお感じになりましたか?
多分周囲に居合わせた殆んどの方達は、あと一歩が踏み出せなかったんだと思うのです。
視覚障害の方にどう対処したらよいのかわからない。
声をかけたとしても、誘導方法がわからない。
加藤さんは介助技術を知っていたから出来たんじゃないのか。
このような場合、声を掛けるだけでもその女性は安心できた筈です。また、誘導方法は、知らなければその女性に聞けば済むことだったのです。
介助技術云々を考え過ぎて立ちすくんでしまう前に、ほんの少しだけ気持ちを前に出して、困っていたその女性にまず安心して頂くための声かけをしていただきたかったと思うのですが如何でしょうか。
去る3月3日の日経新聞インタビュー記事『領空侵犯』で、シンクタンク構想日本代表で東京財団会長も兼務されている慶応義塾大学教授の加藤秀樹氏がバリアフリーを見つめ直せといったテーマで次のように語っておられたのが強く印象に残りました。
バリアフリー化の重要性は理解するとされつつ、
「いくら街を平らにしてもつまずく人はいます。そのときに『大丈夫ですか』と声を掛け、助ける人がいるかどうかです。欧州の街はバリアーだらけですが、困った人がいると見知らぬ誰かが何の気負いも無く、自然に手を差し伸べています。それが本来の姿だと感じます」
(「 」内は原文のまま引用させて頂きました。)
ここに書かれている加藤秀樹氏の論では、バリアフリーもハード面を改善してよしとするのではなく、人と人とのつながりを取り戻すことがさらに大切なのだと説かれています。まさに心のバリアフリーに通じるものがあり、もう一歩前に出ましょうよ、というメッセージにもなっています。
アイ・コミューズの共感のサービス研修では、サービスにつらなる介助技術をお伝えする前に、『共感』をキーワードとして、持っていただきたい心の備えをお伝えすることから始めていますが、意を強くした次第です。
(平成20年4月23日:鴨志田)